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優しくてスパイシーなスリランカのお母さんのカレー

優しくてスパイシーなスリランカのお母さんのカレー

 

 

京成線のお花茶屋駅の近くで、バナナの葉で包んだスリランカカレーのお弁当を売るスバシニさんの店を訪ねました。

  


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スバシニさんは、スリランカのセイロン島の中央部の山岳地帯、キャンディのご出身。中学生と小学生の2児のお母さんです。 

 

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ここ数年で急速に注目されるようになったスリランカカレー。正直言って、スリランカカレーとインドのカレーとの違いを明確に指摘できるほど、僕はまだ詳しくはないのですが、食べてもらえばわかります。見た目は似ていても、インドとスリランカのカレー、まったく別物です。 

 

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スリランカカレーを食べた人の中には、「とても辛い」という印象を持っている人もいるでしょう。僕も以前2回続けて超激辛カレーに当たって、そのあまりの辛さにスリランカカレーからしばらく距離を置くようになりました。


 

あの時のカレーに比べると、スバシニさんのカレーはじつに穏やかです。猛烈に辛いのがスリランカカレーだという認識は、間違っていたようです。当然といえば当然ですが、スリランカの人でも辛いのが好きな人もいれば、そうでない人もいる、ということでしょう。

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スバシニさんも、とくに日本人向けにアレンジしているというわけではなく、普通に作ってくれているようです。辛いのがお好みなら、唐辛子の量を多くすればよし。まずスリランカの味の基本を知るには、スバシニさんが作るお母さんの愛情を感じる優しい味の料理がぴったりでしょう。

 



スリランカ料理の特徴のひとつが、香りのよさ。スリランカではどこの家にも必ずあるのが、ミリスガラと呼ばれる石臼です。スバシニさんの店でも使っていて、これで唐辛子やスパイス、ニンニクなどをすり潰すと、香りの立ち方が格別です。インドネシアやタイでも石の調理器具を使いますが、それぞれ形は違っても効果は同じ。フードプロセッサーで手軽に作ったものとは、明らかに風味が異なります。


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ただ、スリランカのミリスガラは大きくて重いので、スバシニさんも故郷からは運べず、日本の石材加工業者に特注で作ってもらったのだそうです。石製の平台の上に食材を置いて、円柱状の石器を押し付けて、その重さでゴリゴリと擦り潰します。

 

スリランカ料理ではココナッツもよく使いますが、スバシニさんは可能な限りフレッシュなココナッツを用います。堅い殻を鉈で割って、その殻の内側に着いている果肉を、木の椅子に特殊な金具を取り付けたヒラマナヤという器具を使って削り取りきます。ココナッツも、市販の乾燥させたココナッツファインと、削ったばかりのフレッシュなものとでは、美味しさがまるで違います。手間を惜しまないことは、スリランカ料理の重要なポイントです。


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まだスリランカカレーを食べたことがない、という方のために説明しておくと、スリランカで食べるカレーはワンプレートが一般的なスタイルです。皿の中央にごはんを置いて、その周囲に数種類のカレーとおかずを盛りつけます。日本式のごはんドーン、カレーも一種類をドーン、らっきょうと福神漬けはチョビチョビ、という形式とはかなり異なります。


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しかも、カレーやおかずは数種類を混ぜ合わせて食べるのがスタンダード。単品ずつ食べてはいけないというルールはないですが、スリランカの人は混ぜることでより美味しくなると考えています。そのために、盛りつけるときには、どれとどれを混ぜると美味しいかと組み合わせを想像して、並び順を考えるのだとか。


 

当然、作る方も混ぜて食べることを前提に味付けをします。それぞれに出来上がっている料理を混ぜることで、最終的な味を完成させるって、じつに興味深いです。しっかり考えて作るから美味しくなる頭脳派の料理。それぞれが主張が強ければ、不協和音になってしまう。心地いいハーモニーを成すために、素材の持ち味を生かし、バランスよく強弱のリズムを付けて味を調整します。そこがスリランカカレーの面白いところ。


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もうひとつスリランカ料理で素晴らしいと感じるのは、食材を無駄にしないこと。カレーのワンプレートには、栄養のバランスと味のバランスを考えて、たいがい葉物野菜の和え物か炒め物が加えられます。今回作ってくれたのは、キャベツのマッルン。千切りにしたキャベツを炒めてターメリックとココナッツと唐辛子を加え、塩で味を付けたもの。本来はキャベツの外側の固い葉で作るのだそうです。日本では捨てられてしまう部分。ごわごわしたケールも、同様にマッルンにして食べることが多いのだとか。栄養のある野菜を無駄にせずに、いかにして美味しく食べるか。そのための工夫から生まれた料理なのでしょう。

  

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釣りたてのカツオをもらったから、と作ってくれたカツオのカレーは、カツオの頭も入れて煮込みます。「食べるところは少ないけど、頭はいいダシが出るのよ」と教えてくれました。

鍋の底に残ったカレーの汁も無駄にしません。スバシニさんはごはんを鍋に入れ、残った汁を絡めてさらい「本当はこれが一番美味しいのよ。残したらもったいない。食べて」と勧めてくれました。

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この鍋底カレーめしも、各鍋をリレーして全部混ぜでオーケイです。確かに、うまし。スバシニさんのお母さん的な愛情を感じさせる優しさにもほっとします。 

 

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じつは、僕はすでに何度もスバシニさんのカレーを食べているのですが、その度に新しい発見があります。今回のカツオのカレーもそうですが、スリランカには魚を使った料理も多く、日本の鰹節と似たものや煮干しのような干した小魚などを使うこともあります。そして、そのどれもが想像以上に魚臭くありません。これぞスリランカ・マジック。スパイスの絶大な効果に驚かされます。 

 

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少量のおかずでもバランスよく食べる。無駄にしないで食べる。スパイスで食べやすくする。スリランカのお母さんの料理を学ぶことは、食育を学ぶことでもあるようです。スバシニさんのクラスでは、ただ食べるだけではわからないスリランカ料理の奥深さを知ることが出来ます。スリランカカレー未体験でも、スパイス料理に興味のある方なら、一度は参加する価値あり。おすすめです。 

 


文・写真 とらお